雪国

雪国と呼ばれる地域に住んでいた。今はあまり雪の降らない地域にいるが、冬になると雪が降らないことを少し寂しく思う。

空から水の結晶が降ってくる。地上に積もれば景色を一変させる。目覚めた瞬間に分かる静寂。こんなおもしろ自然現象でテンションが上がらない方がおかしい。冬期の半分以上が雪日にもかかわらず、毎回わくわくしていた。

この話をすると、雪国経験者からも未経験者からもたいてい怪訝な顔をされる。雪は大変だという印象が強いらしい。同じ地域に住んでいた人曰く、「百歩譲って最初の一年でお腹いっぱい」とのことである。もちろん雪対策には多大な労力がかかっているし、事故も毎年起こっている。

ただ、個人的な経験に限っていえば、雪で苦労したことはほとんどない。豪雪地帯の設備や社会システムは雪が降る前提で作られている。道路は頻繁に除雪され、交通機関の混乱もそれほど酷くない (雪以外の理由で頻繁に運休する路線はあったが)。賃貸住まいで車を持っていなければ、自宅の除雪もほとんど必要ない。

平日の移動手段が徒歩だったことも大きい。横殴りの雨の中を 30 分間歩いたらどうやっても濡れてしまうが、雪なら払えば落ちる。地面の状態によるものの、徒歩なら雨より雪の方が快適なことも多い。ただし雪面を歩くときに使う筋肉は違うらしく、雪が降り始めた時期にはだいたい筋肉痛になる。

これはつまり、個人的な生活形態と社会インフラのおかげで、たまたま雪の大変さを経験せずに済んでいたという話でしかない。雪なんて大したことないというつもりは全くない。雪国の生活はたくさんの人の力によって支えられている。

それを承知の上で、雪国に住んだ感想を率直に伝えたい。雪が降って楽しいよ。

© Yasuhiro Fujii <y-fujii at mimosa-pudica.net>, under CC-BY.